抱擁

青い絵が
こちらをじっと見ていた
むしゃくしゃしたので
白い絵の具で、
ラクガキをしてやった。

その絵が、今
美術館 に 飾られている
有名な画家が
描いたものらしい。

螺旋階段をあがっていくと
吹き抜けの天井から、
まっすぐに ひたすらに
光が差し込んでくる、
手を差しのべようとして、
さらわれそうになる 自分を
寸でのところで引き止める

存在を忘れられた友人が、
不意に何かを
告げようとしたのが
分かったので
「絵?」、と、
聞き返す
返事はなかった
空気は塩分を
含んでいる
呼吸をする度に
しょっぱいので。

友人は
羽、に夢中になっていた
湖に降り立つ天使の
跳ね飛ぶ飛沫が
シミのように見える
中年女性の多くが悩む
それに似ている
絵もまた
老化しているのか
そうだろうか

舌がざらざらする
僕は 塩を感じる
そこではじめて、
ここが円形の建物だと
知覚する
友人はまた
存在を忘れられている


青い絵を舐めていく、
額も含めて 隅々 丁寧に、
しょっぱくないよ しょっ
ぱくない。
なんで

衝撃のあまり、
身動きが出来ない
それでいて 
体中の繊細な部分の
震えは止まらない。
存在を消した友人が
後ろから、僕を
抱きしめている。